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「こんばんは?」
演奏していた手を止めて、僕は冷静に声をかけた。
僕と同じ年頃に見える白い幽霊は徐々にその輪郭をハッキリさせるとただ眠そうな顔で僕を見つめている。
色素の薄いヘーゼルの丸い瞳は子供みたいにあどけなくかわいい。
――もしかして僕はもうすぐ死ぬのか?
その無垢な佇まいに気が抜けたのもあるけど、もし冥界への案内人が傍にいてくれるのなら怖いよりも心強い。
誰でも、人でなくてもいい。見届けてくれる者があるなら。
「あの、わたしどうしていいかわからなくて」
意外にも声はハキハキと明るい。
右も左もわからない様子にちょっと親近感が湧いた。
「ここは僕の部屋だけど、どうしてここに?」
「楽しそうな音を辿っていたらここにいたの」
もしかするとただの浮遊霊とかそういう類かもしれないな。
「そっか。この曲気に入った?」
「うん! もっと聴いていたいくらい」
幽霊にしては似つかわしくない程、陰湿さのない光溢れる笑顔だった。
「わかった。聴いていて」
誰かの為に弾くなんて初めてだ。
夢か?
僕の現実ではありえないことだ。
夏の夜の夢の様に何かの間違いかもしれない。
それでも今夜だけは僕に光を充ててくれた幽霊の為に届けよう。
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