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「……美月?」
目覚めると彼女の気配もなくいつもの朝だった。
しばらく布団に包まりながら昨晩のことを思い返す。
夢だったのか、そうでなかったのか。
事実があったかどうかよりも、僕が覚えてるなら全部本物だという結論で落ち着いてベッドから降りた。そう、美月は本物なんだ。
一回伸びをして窓を開けるとすぐそこに昨日拾ってきた月下美人の蕾が顔を覗かせていた。
葉も水分を含んで昨日よりずっと緑鮮やかで張りもある。
「おはよう。水やるからちょっと待ってろ」
今朝は気分がいい。
いつもより呼吸も楽にできている。
こんな小さなことでも嬉しいものなんだな。
水をやり終えると足取り軽く部屋へ戻ろうとして威圧する声に呼び止められた。
「耀」
父親だ。
足取りがふらついていて、目の焦点もあっていない。酔っぱらっている。
関わりたくなくて、なるべく早く立ち去ろうとする僕の後を追って父親は叱咤する。
「返事くらいしたらどうだ。その猫背も何とかしろ」
無視を決め込んで自室に逃れると手早く鍵を閉める。
喚いて罵る声がドア越しに背後から貫いてくる。
何が”なんとかしろ”だ。
この姿勢の方が呼吸が楽なんだよ。
――知らないくせに
この家には僕の味方がいない。
悔しい。
――喘息さえなければ
悔しかった。
普通に生活している人の半分以下でしかない。
言い返すだけの事もできていない。
死にきれない自分が。
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