元英雄の苦悩

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「いらねぇよ!! 火の魔術使えっから!!」  そういうのいいから早く台所に行けって、と怒鳴って御玲(みれい)を押しのける。  荒々しい溜息をつきながら、左手の人差し指を赤く光らせてライターの火程度の小さい火をおこし、煙草に火を点けた。  落ち着け。飯を食い終わるまでの辛抱だ。飯さえ食い終わればとっとと道場に行って修行ができる。澪華(れいか)十寺(じてら)のことも忘れられる。  そして今以上に強くならなきゃならない。今のままではあの十寺(じてら)と戦ったところで、勝算が皆無。  それに弥平(みつひら)の話によると、アイツは首謀者ではなく首謀者の手先。その中でも幹部クラスの存在ではと話していた。  つまりあの十寺(じてら)よりも強い奴がいるかもしれないんだ。当然首謀者は更に強いんだろうが、俺はただの幹部に負けた上、奪われた。  十寺(じてら)が去った後、澪華(れいか)の亡骸を探したけど、あの女子高生だった何かは跡形もなく消えてた。十寺(じてら)が覆面どもを使って、回収したのは明白だ。  結局アレが本物の澪華(れいか)だったかどうかを確かめる術は無く、十寺(じてら)が言っていた事実を信用するしかない現実に、されるがまま打ちひしがれる他なかった。  自虐の渦の中、首を横に振る。  駄目だ。考えれば考えるほど虚しい現実が痛めつけてくる。自虐せずにいられなくなる。考えたくないのに、じっとしていると思い返してしまう。  貧乏揺すりが激しくなり、テーブルが唸る。  飯ができるまでの時間。テレビを見ながら久三男(くみお)と他愛ない話でもしていれば、あっという間に過ぎてしまう時間なのに、今日は物凄く長い。  長くて、永くて、堪らない。
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