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「お前、今の仕事は好きか?」
真柴が尋ねる。
「ホスト?嫌いじゃないよ。ってか、今までやった
仕事の中では一番好きかも……どの店も続かないけどさ」
19歳の時。道端でスカウトされ、足を踏み入れた水商売は
案外性に合っていた。
ベビーフェイスと母性本能をくすぐるような、甘えた雰囲気。
どこの店でも、そこそこに指名客は付く。
「この業界で喰っていきたいんなら、もっと勉強しろ。
ルックスだけでやっていけるのは、若いうちだけだ」
葵の眉尻が、思い切り下がる。
「えー、ベンキョー嫌い!
前にマネージャーにも言われたけど、ニュースとか見てると
マジ頭痛くなんだよ」
芸能情報と三面記事なら得意なのだが…
「時には、ゴシップ話で盛り上がるのもいいが
毎度それじゃ、すぐに飽きられるぞ。
知識は財産だし、精査した情報は武器になる」
「武器……ね」
「葵。もう一度紫音に戻って来ないか?」
真柴の思いがけない言葉に目を見張る。
「何でボクなんか……」
真柴は人差し指を立てると「しっ」というように
唇に当て、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「お前みたいなイイ男、ホストクラブのオーナーとして
ほっとく手はねぇだろ」
葵は照れたように、目を逸らし
「……考えとく」と呟いた。
真柴は、その肩をポンと叩くと立ち上がった。
「気が向いたら連絡しろ。浅倉に話を通しておくから」
そのまま、背を向け歩き出す。
「あ!待って、ハンカチ……」
呼び止める葵の声に、艶やかな黒髪を揺らし振り返る。
「やるよ。いらなきゃ、ゴミ箱にでも捨とけ」
風に乗り、流れてくる歓楽街の喧騒。
『――さんの前途を祝して
万歳三唱…ばんざい…ばんざい…ば』
「返すよ、ちゃんと。
――――後で紫音に持ってくから!」
気付くと葵はそう叫んでいた。
真柴は冴えざえとした、微笑みを浮かべる。
「そうか、待ってるぞ」
ゆっくりと遠ざかっていく背中を見送りながら、葵が呟く。
…自分にホストとしての資質がどれ程あるのか、分からないが…
「とりま『坊っちゃん』
……真面目に読んでみようかな」
FIN
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました(///ω///)♪
引き続き『裏切りに捧げる鎮魂歌』をお楽しみ下さいませ
(葵はお役御免ですがw)
一ノ瀬愛結
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