葵~公園にて

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煌びやかなネオンが渦巻く歓楽街。 そのすぐ傍にあるのに、全く別次元のような 薄暗い公園。 「いてててっ…」 月城葵(つきしろ あおい)は足を引きずりながら、ペンキの剥げたベンチまで辿り着くと 倒れ込むようにどさりと腰を下ろした。 泥だらけになった、薄紫のジャケットを脱ごうと身体を捻ると 蹴りつけられた脇腹に激痛が走る。 「…ってぇ…」 呻き声が漏れた。 鉄臭い唾を吐き出し、左頬をそっと撫でる。 そこは触れただけでも分かるほど腫れ上がり、熱を帯びていた。 「くそっ…あいつら、商売道具の顔を殴るなんて―――ホント最悪だ!!」 自分を袋叩きにした、先輩ホスト達のにやけ顔が蘇る。 『人の客に手ぇ出すから、こんな目に合うんだよ』 そんなに大切な客なら、他のホストに手ぇ出さないように言っとけよ… 『枕営業なんて、マジさいてーだな。お前』 誘ってきたのはあの女の方だし…指名替えなんて頼んだ覚えもない… 『二度とその(つら)見せんじゃねぇぞ』 言われなくたって、あんな小箱※1そっこー辞めてやるよ。 新しい店なんて、すぐに見つかるし。 履歴書の職歴にもう一店追加しなきゃなんないな… 今年になって何軒目だろう。 あ―――店にバンス※残したまんまだった… 顔を上げただけで、全身がずきずきと痛んだ。 眉を顰め、浅く息を吐く。 もう、そんなのどうでもいいや…面倒な事は後で考えよう。 葵は背もたれに身を預けると、静かに目を閉じた。 ※1 店内のスペースが狭い店のこと ※2 アドバンス略語 前借りの意
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