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噂の美人教授4
「ねえ、媚薬って知ってる?」
いきなり、そんなことを聞いてくるのは、久野梓の隣にいた、一坂菫であった。
「もう、なに言ってるのよう。」
黄色い声が、部屋のなかをピンク色に染めていく。
「面白い娘達、でしょう?」
下野毛教授が、声を掛ける。
「はあ、まあ。」
ちょっと、シドロモドロになっている保鉄名を、隣の部屋へ引っ張って行く。
その部屋は、いろんな瓶が並んだ棚が、ビッシリと並んだその奥に、こっちに背を向けて座っている人物が一人。
「藤木くん、こっちに来て。」
下野毛教授が、その人物に声をかけた。
藤木と呼ばれたその人物は、面倒臭そうに立ち上り、のそのそとこっちに来た。
年は保鉄名より、五つ以上は上だろう。
短く刈り上げた頭、ゲッソリと痩けた頬、度のキツそうな眼鏡。
絶対自分とは、関係無い人種。
保鉄名はそう思った。
「やあ、いらっしゃい。」
藤木と呼ばれたその男は、やや低めの声で、歓迎の言葉を口にした。
だが、その目は、敵意に満ちていた。
しかし次の瞬間、その目がキラリと輝いた。
「教授、こいつはすごい素材ですよ!」
目を輝かせて、藤木は下野毛章子を見た。彼には保鉄名の、体臭の異様さが、素で解るらしい。
「彼の鼻は、ワンコ並みに利くのよ。」
下野毛彰子はそう言うと、
「改めて紹介するわ。彼は、藤木剛。この研究室の、首席研究員よ。」
そう言って、保鉄名に笑みを送る。
「藤木君、彼が保鉄名市蔵君。」
そう言うと、軽くクスっと笑った。
「ああ、ご免なさいね。」
そう言って、
「じゃあ保鉄名君、早速私のお手伝い、宜しくね。」
と、さっきの部屋へと、戻っていった。
さっきの部屋へ戻ると、先程の女性達が、何やら機材を引っ張り出して、あれこれと設置していた。
「悪いけど、その胴着を脱いで、このウエアに着替えてくれる?」
下野毛章子はニコリとしながら、そう言って、袋に入ったジャージのような物を手渡した。
一応、パーティションで区切られた、スペースで着替えて、研究室に出ると、部屋の真ん中に、ルームサイクルが置かれていた。
下野毛彰子が、ソレに乗るように促す。市蔵がソレに跨がると、ジャージの裾やら袖から出ている、様々なコード類を、研究員の女の子達が、手際よく観測機器に繋いでいく。
「市蔵くん、そのまま20分自転車をこいで。色々なデータを録るから。」
そう言うと下野毛彰子は、ストップウォッチのボタン押して、
「はい、スタート!」
と、掛け声を出した。
市蔵はゆっくりと、自転車をこぎ出した。
すると不思議なことに、数秒と経たない内に、じわりと汗ばんできた。
まあ、さっきまで道場で汗をかいて、そのままの格好で、ここに来ている。此処は適当に、エアコンが利いているが、そんなものじゃ、市蔵の身体は冷えやしない。
だけど此の 、ルームサイクルをこぎ出したとたん、じわりと汗ばんできて、ものの3分程で、滝のような汗をかいていた。
すると、周りにいた女の子達が、ガーゼで汗を拭いてくれたり、ペットボトルに入ったドリンクを飲ませてくれる。
その間、下野毛章子教授は、パソコンのデイスプレイとにらめっこしている。
時たま、保鉄名に視線を送っては、意味ありげに微笑む。
あっという間に、20分が経ち、下野毛教授が、保鉄名を制した。
下野毛教授の回りに、研究生の女の子達が集まり、ああだこうだと、意見述べている。
「はい、ご苦労様。冴島さん、市蔵君を、シャワー室に案内して‼️」
冴島と呼ばれた研究員が、嬉々として立ち上がり、保鉄名の手を引いて、シャワー室へと案内した。
短か目の髪の毛に、緩くウェーブがかかった、活発そうな女の子だ。
「じゃあ市蔵君、此方来て!」
シャワールームの一番奥のブースに保鉄名を引っ張って行く。
「そのジャージは、此方の籠にいれて、着替えはこれね。」
冴島嬢がいつの間にか、キチンと洗濯してある、柔道着を用意していた。
保鉄名が、何か色々と、はじめての体験に(こんなに多くの女性に囲まれた経験が無い)ドギマギしていると、シャワーの具合を確かめていた冴島嬢が、
「なんなら、私が身体を洗いましょうか?」
と、満面の笑みで、そう言った。
「い、いえ、お構い無く。」
少し上ずった感じで、返事をすると保鉄名は、そそくさとシャワールームに入っていった。
下野毛教授に呼び出されてから、二時間弱。保鉄名市蔵は少しぼうっとした感じで、道場に戻ってきた。
時刻は、午後五時過ぎ、傾いた陽光が、その色を失いつつ有る時刻である。
保鉄名は、もう道場には、誰も居ないだろう?と、思って、学生服に着替えようと、道場の裏手に回って、ロッカー室に入ろうとした。
此の大学の、柔道部の練習時間は長くない。
特に試合の無い時期は、身体を造ることに重点を置く為に、過度な練習を避ける。
効果的に身体を造るには、適度な運動と休息を、繰り返す。そう言う哲学なのだ。
保鉄名が、ロッカー室の扉に手を掛けた途端、
「モテナイ君、モテナイ君!」
と、少し気味の悪い声が、飛んできた。
保鉄名が、その声の方向に目をやると、監督の月山隆衛がニコニコしながら、近寄ってきた。
「月山監督、只今戻りました。」
保鉄名がそう挨拶をしたら、
「モテナイ、一寸此方に来い!」
月山は、保鉄名の道着の袖を掴むや、道場の中へと、引っ張り込んだ。
月山監督のあとに、付いて行くと、未だ道場には明かりが付いていて、十数人の柔道部員達が、車座になって座っていた。
「なんなんスか、皆して?」
保鉄名は、一寸ギョっとした。
その場にいる全員が、月山監督も含めて、眼が熱い!全員が妙に燃えている。
「実はなモテナイ、皆がお前の話が、聞きたいそうだ。」
月山監督が、口を開く。
周りの部員達も、軽く頷く。
「話って?何の事ですか?」
素なのか、態となのか?保鉄名が空っ惚けたように、月山の問いに答える。
「エエイ面倒クセエ!」
月山は、いきなり保鉄名の首に、ヘッドロックを掛けて、思いっきり締め上げた。
「うぐぎぎぎ!監督、な何を?」
踠く保鉄名に躊躇せず、月山はそのバカ見たいに太い腕に、力を込めた。
「実はな、モテナイ。お前が章子さんに呼び出されたその後、何をやっているのか、部員に後を着けさせたんだ!」
後を着けた部員の話によると、詳しくは解らないが、研究室の女子研究員に囲まれて、何やら愉しそうであった?との報告がなされていた。
「さあ、言え!章子さん達に、何をされた?何をした?」
月山の腕に、更に力がこもる。
周りの部員達も、眼が熱く光る。
「うぐぐっ、解りました。話す、話します!」
保鉄名は苦しい息の下、やっとこさその答えを、絞り出した。
保鉄名は、道場の真ん中に座らせられた。真正面には、月山監督。そしてその周りを、グルリと柔道部員達が取り囲んだ。
実に異様な、光景ではある。此れから集団リンチでも、始まりそうではある。
「エエと、実はですね……。」
保鉄名は、研究室て起こったことを、事細かく語りだした。
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