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噂の美人教授2
道場内は、騒然となった。
そうだろう、何時もは構内では、見かけることもまれな、大学内一の美人が、むさ苦しさMAXの柔道場に、突然降臨したのである。
正に降臨と言う、感じである。
柔道の指導をしていた、監督の月山隆衛六段が、声を裏返して、すっ飛んできた。
それを見た部員達から、失笑が漏れる。
一瞬、すごい形相で、部員達を睨み付けてから、鼻の下を伸ばすだけ伸ばして、下野毛章子に、
「こんなむさ苦しい場所に、ようこそおいで下さり、何か私にご用で?」
ちょっと上ずった感じで、月山が対応する。
「あ、ゴメンなさい。教育学部の、保鉄名君はいるかしら?」
それを聞いて、又道場がザワっとなった。
道場に保鉄名市蔵は、居なかった。
柔道部の敷浪で、一回生は基礎体力強化の名目で、道場裏手の山道でロードワークが主なトレーニングメニューになっていた。
結局小一時間で、保鉄名達一回生は帰ってきたが、下野毛章子は帰ってしまっていた。
保鉄名市蔵が道場に入ると、何か変な空気が漂っていた。
妙にピリピリとした何かが、身体中に突き刺さった。
「おい、モテナイ!」
怒気の籠った声で、月山監督が保鉄名市蔵を呼ぶ。 顔が恐い。
ただでさえ、鬼瓦みたいな顔が、赤黒く腫れているように見えた。
「下野毛教授が、お呼びだ。直ぐに研究棟に、行け。」
「分かりました。」
保鉄名市蔵は、素直に返事して、道場を後にした。
「あ、ちょっと待て。」
道場を出た保鉄名を、月山が追いかけて、道場を出ていった。
「何ですか?」
呼び止められた保鉄名が、柔道着の袖を引かれて立ち止まる。
「着替えなくて良い、其のままで来いと言うことだ。それと‥‥‥。」
そう言うと、保鉄名の肩を抱き込み、
「お前、章子さんと、どういう関係だ?」
巻き付いた月山の腕に、グッと力が入る。
「な、何でもないですよ。」
保鉄名は、ちょっと慌てた。
別に、特別な関係があるわけでなかった。
保鉄名自身も、戸惑っているのだ。
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