噂の美人教授2

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

噂の美人教授2

 道場内は、騒然となった。 そうだろう、何時もは構内では、見かけることもまれな、大学内一の美人が、むさ苦しさMAXの柔道場に、突然降臨したのである。  正に降臨と言う、感じである。  柔道の指導をしていた、監督の月山隆衛六段が、声を裏返して、すっ飛んできた。  それを見た部員達から、失笑が漏れる。  一瞬、すごい形相で、部員達を睨み付けてから、鼻の下を伸ばすだけ伸ばして、下野毛章子に、 「こんなむさ苦しい場所に、ようこそおいで下さり、何か私にご用で?」 ちょっと上ずった感じで、月山が対応する。 「あ、ゴメンなさい。教育学部の、保鉄名君はいるかしら?」 それを聞いて、又道場がザワっとなった。  道場に保鉄名市蔵は、居なかった。  柔道部の敷浪で、一回生は基礎体力強化の名目で、道場裏手の山道でロードワークが主なトレーニングメニューになっていた。  結局小一時間で、保鉄名達一回生は帰ってきたが、下野毛章子は帰ってしまっていた。  保鉄名市蔵が道場に入ると、何か変な空気が漂っていた。  妙にピリピリとした何かが、身体中に突き刺さった。 「おい、モテナイ!」 怒気の籠った声で、月山監督が保鉄名市蔵を呼ぶ。     顔が恐い。  ただでさえ、鬼瓦みたいな顔が、赤黒く腫れているように見えた。 「下野毛教授が、お呼びだ。直ぐに研究棟に、行け。」 「分かりました。」 保鉄名市蔵は、素直に返事して、道場を後にした。 「あ、ちょっと待て。」 道場を出た保鉄名を、月山が追いかけて、道場を出ていった。 「何ですか?」 呼び止められた保鉄名が、柔道着の袖を引かれて立ち止まる。 「着替えなくて良い、其のままで来いと言うことだ。それと‥‥‥。」 そう言うと、保鉄名の肩を抱き込み、 「お前、章子さんと、どういう関係だ?」 巻き付いた月山の腕に、グッと力が入る。 「な、何でもないですよ。」 保鉄名は、ちょっと慌てた。  別に、特別な関係があるわけでなかった。 保鉄名自身も、戸惑っているのだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加