夏魎の巣穴(カリョノスアナ)

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 一階に落ちている、枯れた花束の上に蝉の死骸があった。 「あの年も、蝉の声は少なかったな……」 「ドサッ!」  目の前には自治会長と思われるものが落ちていた。  細い体をよじらせ、後頭部から赤いゼリーをぶちまけている。  老人とは思えないくらいの激しさで、眼球運動を繰り返している。  やがて動きが止まった、ご老人。  その周りには煙たい存在がまとわりついていたが、それもやがて消えた。 「成仏はさせない。この団地が朽ちるまで、縛り付けられるがいい」  簡単な呪文と法具を使い、彼らの魂を強制的に呪縛した。 「あとは、住人さんに任せよう」  夏魎入りの壺をマンションの壁に投げて立ち去る。  下り坂を歩き、笑いながら、涙した。 「やっぱ暑いからタクシー呼んじゃおうかな、金も入ったし」  この先も、夏を好きになることは無い、と思う。
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