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「伊能正孝は、私の父です。母は伊能雅。私は、名前が変わりましたが」
「ほう、ご家族に何か?」
「ありました。両親は離婚して、母は首を吊りましてね、父はあなたの妻と同じように飛び降りました。残された私は、親戚中をたらいまわしにされた挙句、施設に預けられました。その後逃げ出して、とある方面に厄介となった訳ですが……」
自治会長は、キョトンとして話を聞いている。突然こんな話をされても、何の事やら分からないのは当然。居なくなった隣人の事など興味は無いだろう。
「二十年前、この部屋の隣に伊能、と言う家族が住んでいました。私の家族です」
自治会長は、最大限に目を見開いた。
「あああ、うう、ああぁあ、あの子か、あの目付きの悪いガキ」
「ええ、そのガキですよ」
サングラスを外し、子供の時よりさらに研ぎ澄ませた目を見せる。
「ななな、な、なんなんだ」
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