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墓場と似たような、匂いを感じたまま歩く。
依頼主の居る角部屋は、もうすぐ。
しかし、タクシー代はケチるもんじゃない。暑さと、この辺りの独特な雰囲気のせいで、仕事の前に気力も体力も削がれてしまった。
さらに嫌なものが目に入る。
隣室のドア。
その足元に、ボコボコとしたへこみがある。
補修はされているが、隠しきれていないへこみ。
一瞬動きが止まったが、足を進めて、依頼主の部屋の前に立った。
軽く身だしなみを整えて、深く呼吸。
「プゥィンプォ~ン」
黄ばんだプラスチックのチャイムを鳴らした。気の抜けた音ではあるが、何十年もそのままのチャイムがまだ鳴ける事に、少々感心する。
「ガチャガチャ、ガチャッ、キッギィィィ」
具合の悪いチェーンロックを手間取って解除、錆び付いたドアが開く。
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