夏魎の巣穴(カリョノスアナ)

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「あっ、ああ、君か、今日だったね。まあ、入りたまえ」   ドアと同じくらいガタついた自治会長の爺さん。今年で四年目になる。まったく随分年寄りらしい年寄りになったものだ。こちらは、商売人の笑顔でお邪魔する。 「失礼します」  こじんまりとした部屋にこびりついたヤニの臭いは、去年より明らかに濃い。愛煙家のご老人、その呼吸音の中には、いちいち雑音が混じっている。  綺麗好きだったはずの部屋は、ゴミ袋が幾つか散らばっている。足の踏み場が無い、と言うほどではないが、もう半年もすればそうなるかもしれない。 「椅子に掛けてくれ」 「はい」  座った椅子も何だかべとつく。テーブルに置かれている奥さんの遺影だけは、綺麗に磨かれているようだが、閉じられた仏壇の方は、くすんでいた。 「暑い中、ご苦労でしたな」 「いえ、タクシーだったのでそれほどでも」  電車で最寄り駅、そこから本数の少ないバスを見送ってここまで歩いて二十分。経費的には、それをタクシーにしておけばその分儲かる。貧乏な拝み屋の、可愛い経費削減方法の一つ。
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