夏魎の巣穴(カリョノスアナ)

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 なまぬるい麦茶をご馳走いただきながら、契約交渉を進めた。  当初、昨年より三割増しの提示価格に難色を示していたが、被害の大きさとその拡大傾向を切々と説いていく内に、なんとか、ご納得いただけた。  昨年は二時間以上の交渉の末、こちら側が折れる形で落ち着いたが、その時は奥さんがいたので、あちらサイドの交渉でもあった。  物件の事故後、遺族側と保険会社から補償金が自治会に支払われる。  事故部屋を全面改装した後のおつりは、少なくない額で、その他の諸経費を差し引いても、なかなかの額が残り、それがそのまま自治体の貯金になる。  事故物件が起これば起こるほど、小銭が溜まる。  勿論、いわく付きの物件となると、新しい入居者はなかなか付かない。  そんな場合は、自治体と管理会社、不動産会社と金の無い学生の連携プレーで物件の経歴をクリーニングする。  または、事件性のない自然死を主張して、平然とネット上の住宅情報検索に流す。室内全面リフォーム工事住みの綺麗な写真を載せれば、その瞬間に、意識高い系の若者が群がる。
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