夏魎の巣穴(カリョノスアナ)

9/16

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 ここから一番近い部屋は、四階の部屋か。  カギの束は頂いて来たので、自宅と同じようにドアを開けて中に入る。  室内は、既にクリーニングが終わり、新築の臭いがする。  綺麗な壁紙に、真新しいフローリング。  壁は真っ白な壁紙に張り替えただけ。フローリングは木では無くて樹脂製の物が敷き詰められている。これを剥がすと、いわくありげな染みなどが現れるだろう。  キッチンもトイレも綺麗に掃除されていて、少し黄ばんではいるが、よほど神経質な者でもなければ気にしない程度。  押入れは、手の込んだものではなく、安いべニア板が張られているだけだが、カビ臭くも無く埃も落ちていない。  押入れ上段の天板を外す。  ライトを付けてセメントの柱を照らすと、役目を終えた札があった。真っ黒に焼け焦げたようなその札を、崩れないように回収する。そのまま持参したジップ付きの透明な袋に入れる。  部屋の方からゴソゴソと音がした。  まだ部屋に漂っているのか。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加