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長身の体に纏ったグレーのコートは去年のクリスマスに贈った。
首元を包む落ち着いたワイン色のマフラーは一昨年の誕生日に贈った。
袖口から覗く細かな細工が施された腕時計。
恥ずかしいからやめようと渋る彼をなんとか説得して身に着けたお揃いの品だった。
その腕時計を着けた手に絡む白い指。
知らない。
それは、それだけは、知らない。
同僚にしても、部下と上司にしても、説明がつかない親密な距離感。
月明かりがスポットライトのように二人を照らす。
声までは聞こえない。
でも、きっと。
二人はこのまま別れない。
足が勝手に動き始める。
何杯目かも思い出せないコーヒーのカップは無意識に握り潰してしまったのだろう。
私の心のようにグシャグシャに皺が刻まれたそれを、ゴミ箱へ投げ込んだ。
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