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コンサルティングは向いている、と思う。
「うちの銀行の伝説のお二人ですよね。」
「なんの伝説だよ。」
と成嶋は笑っている。
打ち合わせでノートを出す時に左手の指輪が見えた。
「成嶋さん、指輪?」
「ああ、結婚したからな。」
「羽村さん、ですか?」
「他にいねーでしょ。あいつも今は成嶋葵だよ。オレの転勤決まって、すぐ籍入れようぜってなってさ。仕事も頑張ってるよ。オレの悪評にも負けず。」
笑ってはいるが、この人の怖さは十分過ぎるほど分かっている。
支店を出てから成嶋のいた1課が『チーム成嶋』として、他のエリアにも名前を轟かせていたと改めて知った。
同じ支店で、中にいたら気付かないことだ。
羽村はそのチーム成嶋の中にいた女子行員で。
成嶋が言うには今は、結婚して苗字も変わっている、とのことだが。
葵になにかあれば、成嶋がキレることは間違いない。
成嶋は怒らせると怖い相手だ。
貴志の転勤の後、葵が転勤になり、成嶋も出向したことは知っていた。
少し後に同じくチーム成嶋の新人行員だった久藤も
、課長代理になり、転勤したと異動一覧で確認した。
あのチームですら、バラバラになってしまうんだなと、時間の流れを感じたものだ。
しかし、そうか…二人とも幸せなのだな、と思った。
じっ、と成嶋に見られる。
「飲み行くか?」
「ですね。」
「いいなー。」
柳田が羨ましそうな声を出してきた。
「来りゃいいだろが。なあ?奢ってやるよ。」
ええーっ、ホントですかぁ、と柳田は大喜びだ。
そうだ、この人はこういう人だった、と思い出す。
いつも、回りに人が集まる。誰でも味方に付けてしまう。
成嶋が連れて行ってくれたのは、個室の会席料理だった。
シンプルな看板にくぐり戸。くぐり戸から玄関まで、飛び石と灯篭が配置されており、なかなかの雰囲気だ。
それだけで柳田は緊張しているようだった。
「あのー、榊原次長…なんだか敷居が高いんですけど…」
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