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「ああ、あれ。打ち合わせでね。今度、協働でセミナーがあるから、顔合わせに行ってた。真奈の顔も見たかったしね?」
「はい。打ち合わせって聞きました。あの、そのセミナー、私もお手伝いするんです。担当の方が参加されるそうで。」
「へえ?そうなんだ。一緒に仕事出来るね。」
「緊張します。貴志さん、すごく有名な人だって、聞きました。」
「そんな風に言ってもらえるのは光栄だけどね。買いかぶりすぎだな。」
真奈も先日よりは、少し気持ちがほぐれているように、貴志には見えた。
食事中も、少し笑顔を見せたり、慣れてくれば俯いてしまうこともなく、きちんと目線を合わせて話をすることが出来るようだ。
「真奈、この話、進めるから。」
「はい。父にも話してあります。」
食事も終わり、デザートも落ち着いた頃、貴志はそう、真奈に切り出した。
改めて意思を伝えたつもりだが、真奈も話をすすめることに異議はないようだ。
そうか...それなら...。
「今日、遅くなっても構わないかな?」
「え?それってどういう…?」
貴志はホテルのカードキーをテーブルに置く。
「えっ!あっ、あの…」
「いやなら、やめる。一緒にいるだけでもいいよ。少しゆっくり話がしたいんだ。」
「はい。」
俯きつつ、とてもか細い声ではあったけれど、ハッキリとした『はい』という返事。
レストランの会計を済ませた貴志は、真奈の手を繋いで、エレベーターに向かった。
カードキーを使って部屋に入る。
貴志は「失礼。」と言ってジャケットを脱いだ。
「おいで。」
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