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「だって、お店の人に、貴志さんは素敵な人だからきっと色んな人とお付き合いしてるから、って。」
誰だ、そんなことを言ったやつは。
「正直に言うね。否定はしないよ。この年だし、それなりにお付き合いはしたけどね、でも、結婚したいって思ったのは、真奈が初めてだ。ごめんね。」
「どうして謝るんですか?」
「そんなに不安に思ってるなんて知らなかったから。」
「貴志さんこそ、いいんですか?」
「どれだけ好きか、見せれるものなら見せたいよ。」
「あのっ…私、します!」
「は?」
「大丈夫です。分からないですけど。」
「いや、無理でしょ。」
「大丈夫です。」
その、根拠に乏しい大丈夫を聞いて、行くやつはいないと思うが。
「真奈、君の良いところはその、一生懸命なところ。僕も好きだよ。でも、急に走ったらケガするよ。」
貴志も今日は少し関係を深めたかっただけで、野獣になる気はなかった。
しかし、真奈はいつになく真っ直ぐ見つめてくる。
貴志がくすりと笑うと、真奈はひたむきな顔で「でも、きっと貴志さんはケガなんてさせないと思うんです。」と言う。
「参った。その通りだな。」
貴志はくすっと笑う。そして、眼鏡を外した。
その仕種だけで、真奈は緊張感を高めているのが、見て分かる。
実は、貴志の眼鏡にはほとんど度は入っていない。
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