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お断り、しよう。相手も本当にエリートの引く手あまたならば、こんな自分でなくてもいいだろうと思うし、そもそも父がごり押しした気配がする。
父のことは嫌いではないし、尊敬もしているが、ワンマンで強引なことは否定出来ない。
「あなたが無茶ばかり言うから、お父様も先方にカジュアルにって、お申し出したのよ。だから、釣書も写真も、なしよ。とりあえず、お会いするだけ、会ってみなさい。」
そこまでされては、ノーとは言えない。
「はい…。」
待ち合わせだというホテルに、真奈は重い気持ちで向かった。
その日は良い天気で、真奈は窓から見える景色が綺麗だな、などと思っていた。
朝から着付けられた振袖は綺麗で、嬉しくもあったが、いかにも、な感じが少し恥ずかしい。
こちらになります、とレストランのフロアマネージャーの声がして、振り返る。
え?!
お相手、と思われる男性は髪は柔らかくまとめられ、清潔感がある。
フレームレスの眼鏡をしているが、顔立ちは怜悧な美形。
好みのど真ん中だった。
それでも、断る、と決めていたから。
「小笠原様!お忙しいところ、恐れ入ります。こちらが榊原です。」
支社長の大きな声は、真奈が苦手とするところだ。
「榊原貴志です。」
対して、榊原と名乗ったそのお見合い相手は、当たりもソフトで声も柔らかい。
本当に、綺麗な人。
「小笠原真奈です。」
こんな美形で、しかもエリート銀行員ならば、引く手あまたの方だろう。
どうしよう。
こんなにステキな人とは思わなかったんです。
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