番外1:真奈ちゃんの初恋

2/10
前へ
/154ページ
次へ
お断り、しよう。相手も本当にエリートの引く手あまたならば、こんな自分でなくてもいいだろうと思うし、そもそも父がごり押しした気配がする。 父のことは嫌いではないし、尊敬もしているが、ワンマンで強引なことは否定出来ない。 「あなたが無茶ばかり言うから、お父様も先方にカジュアルにって、お申し出したのよ。だから、釣書も写真も、なしよ。とりあえず、お会いするだけ、会ってみなさい。」 そこまでされては、ノーとは言えない。 「はい…。」 待ち合わせだというホテルに、真奈は重い気持ちで向かった。 その日は良い天気で、真奈は窓から見える景色が綺麗だな、などと思っていた。 朝から着付けられた振袖は綺麗で、嬉しくもあったが、いかにも、な感じが少し恥ずかしい。 こちらになります、とレストランのフロアマネージャーの声がして、振り返る。 え?! お相手、と思われる男性は髪は柔らかくまとめられ、清潔感がある。 フレームレスの眼鏡をしているが、顔立ちは怜悧な美形。 好みのど真ん中だった。 それでも、断る、と決めていたから。 「小笠原様!お忙しいところ、恐れ入ります。こちらが榊原です。」 支社長の大きな声は、真奈が苦手とするところだ。 「榊原貴志です。」 対して、榊原と名乗ったそのお見合い相手は、当たりもソフトで声も柔らかい。 本当に、綺麗な人。 「小笠原真奈です。」 こんな美形で、しかもエリート銀行員ならば、引く手あまたの方だろう。 どうしよう。 こんなにステキな人とは思わなかったんです。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7482人が本棚に入れています
本棚に追加