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客間でいらっしゃいと出迎えてくれたのが、小笠原家の当主である。
にこやかでも油断出来ないことなど、貴志は百も承知だ。
「初めてお目にかかります。榊原貴志です。」
貴志も笑顔で挨拶をする。
「うん。聞いているよ。今日はお呼び立てして悪かったね。」
「こちらこそ、ご挨拶が遅くなりまして。」
「いや。うん、支社長からはいろいろ聞いていたからね。」
お互い笑顔でも、探りあっている気がするのは気のせいだろうか。
そこから、最近の経済動向や、景気、市況の話になり、貴志も根気強く付き合った。
「お話しについては進めても良い、と支社長に聞いているけれども。」
ついに来たか、と思う。
「はい。ありがたいお話しだと思っております。幸い、お互い気も合ったようですし。」
「ご実家は問題ないのかな?」
実家の話が出ることも、予想はしていた。
実は実家にも報告済である。
少し前に結婚しなかった長男が結婚した。
貴志の結婚はしばらくないだろう、と思われていたようなので、重ねてのおめでたい話に、実家は大喜びだった。
その、様子をふと思い出す。
「ええ。そうですね。多分、さほど僕のことは気にしていないと思いますが。」
「いずれ、両家の顔合わせは必要だろうね?」
「はい。」
「分かった。今後のことはまた、相談しよう。結婚式については秋くらいではどうだろうか。半年程あれば準備出来るだろう。」
「では、それで真奈さんと打ち合わせします。結納もさせて頂きます。」
「うん。そうしてくれ。」
当主の機嫌は悪くなさそうだ。
ひとつ、お願いがございまして。と貴志は切り出す、
「真奈さんに指輪を贈りたいんです。」
「婚約指輪かな?」
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