8.何もしてないはずはない。

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「あの、それ内緒でお願いします。」 口元に人差し指をあてて、目を微笑ませる葵だ。 相変わらずのツルツルした、明るい髪色のボブにふんわりした頬。 小動物のような可愛らしさは健在だった。 「大丈夫ですよ、葵さん。柳田は成嶋と面識あるので。今度一緒に仕事する予定ですし、あらかじめ言っておいた方が、叶わぬ恋に落ちなくて済みますから。」 別に嫌味でも、何でもなく、な。 「あ、あははー」 と葵は笑っている。 柳田はがっくり肩を落としているのが、丸わかりだ。 腹芸、出来なさすぎだが、こいつ、本当に大丈夫か!? 若干の不安を抱えつつ、でも、柳田は仕事でもミスは少ない方だし、努力家であることは認めているので、貴志はそっと見守ることにする。 実際に、セミナーが始まるのは午後からの予定だ。 昼少し前から内部の人間については、集合をかけていた。 柳田は葵を自席に連れて行き、パソコンを見ながら結構、熱心に説明をしていた。 葵もメモを取りながら、時折質問をしながら、話に聞き入っている。 一瞬、大丈夫か、とは思ったものの、あれなら大丈夫そうだと貴志は思った。 その時、お世話になりまーす!と入って来たのが、成嶋だ。 「お、柳田くん、元気?」 「成嶋部長!先日はごちそうさまでした!」 「どういたしまして。また、行こうな。榊原、悪いな。準備とかもあるんで、ちょっと早目に来たんだ。」 今日は若手の社員を一人連れて来ている。 「オレの会社の寺崎くん。寺崎、こっちはオレが世話になってる銀行のここの支店の次長。渉外課を束ねてる偉い人。で、元、オレの仲間の榊原。」 「よろしくお願い致します。寺崎忍と申します。」 ピシッとスーツを着こなし、両手を添えて真っ直ぐに名刺を出してくる。     
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