8.何もしてないはずはない。

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今回のセミナーは、いつも会議室として使っているところを、セミナー会場として使うので、さほど、準備はかからないはずだが、やはり、事前準備は必要だ。 成嶋もそれを見越して、万が一のために早めに来てくれたのだろう、と思う。 まあ、先程の20分は別として。 設営の準備の確認のために、みんなで会議室に移動する。 その際、成嶋がぼそぼそと、葵に聞こえないよう榊原に声をひそめてきた。 「先に言うけど、20分では無理だからな。」 「何のことでしょうか。」 「目が疑ってんだよ。」 「疑ってません。」 「オレはしたかったんだけど、葵が絶対ダメって。」 「それは、葵さんが正しいです。」 てか、他人の支店でナニしようとしたんだ?! 「あいつ、結構何でも我慢しちゃうんだな。知ってたけど。」 「ああ、そうですね。」 でも、成嶋自身はどこまで気付いていたか、分からないが、少なくとも同じ支店で働いていた時、葵は相当成嶋を頼りにしていたと思う。 今、東川がいるとはいえ、ひとりで仕事をしていくのは、寄る辺なく不安な気持ちもあるのではないだろうか。 確かに、そんな気持ちも葵は我慢してしまうタイプだ。 「不安なんじゃないですか?」 「うん。オレも察してやれなくて…。」 「でも、大丈夫だったんですよね。」 「まあ。理解が早いし、分かってくれてんだよなー、結局は。」 だから、たまに絶妙にイラッとさせられるのは、なぜなんだろうか。     
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