8.何もしてないはずはない。

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しかも、その笑い声が部屋の外まで漏れており、榊原はため息が出そうになる。 まあ、こういう時に立ち居振る舞いの差が出るな、と榊原は思うのだ。 真っ先に営業場に来て、設営を手伝う成嶋と、真っ先に支店長に挨拶に来る担当者。 ある意味では今日は、成嶋は講師なのだから、踏ん反り返っていても、よさそうなものだ が、これが成嶋であることを榊原は知っている。 「意外と顔に出るんだよな。」 成嶋がくすくす笑っている。 「成嶋さんだからですよ。」 榊原は支店長室のドアをノックした。 信託の支店長と、今までの窓口担当者の他、もう1人と真奈もいた。 今日は制服ではなくて、スーツを着て、名札をつけている。 「失礼します。」 「おおー、榊原くんと成嶋くん!」 いや、だから成嶋は出向してて、他社の部長で今日は講師で、お前の部下じゃないって! 恥ずかしい態度を取るんじゃない。 しかし、もちろん顔には出さない。 「成嶋部長がお越しになりましたので、お連れしました。」 そう言って、榊原は薄く微笑む。 「そうか、成嶋部長、だったね。今日はお願いします。」 「いいえ。こちらこそ。今、うちの部下に設営を準備させてますので。今日はお願いします。支店長、すみません。一応、うちの寺崎から事前にご連絡させて頂いているかと思うんですが、今日は最初にご挨拶いただいてもよろしいですか?」 「もちろんだよ。」 「あの、私は失礼して、設営準備のお手伝いをさせていただいて、よろしいですか?」 真奈の声だ。 みんなが一瞬まごつく。 しかし、さすがにそういう状況には慣れているようで、 「そのために参りましたので。」 と言って、頭を下げてさっさと出て行った。 榊原はふっと笑みが溢れる。 鮮やか過ぎだろ。 「お前の嫁さん、かっけー...」 「ですね。」     
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