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「あと、オレへの依頼とか、絶対受けなくていいからな。それは、会社を通せと言えよ。」
「あ、はい。」
炯が、新たな仕事をスタートさせる時も、今回、セミナーの講師をやる件も葵は聞いていたが、炯に最初に言われたのがそれだった。
家族だから、と葵を利用するような事は絶対に許さない、と言っていて、そのルールを破れば今後取引しない、とまで公言したらしい。
守られてるなぁ、と葵は思う。
今はお客様のために新しい法人を立ち上げる手伝いをしてる、などと近況を聞きながら、葵は、まだまだ、炯の忙しい日は続きそうだと考えていたところで、炯の携帯が鳴った。
「あ、忍ちゃんだ。わり、ちょっと出てくる。」
炯が電話のため、席を外した。
え?し…忍ちゃんて、誰ですか?炯さーん…?
葵は必死で今までの会話の記憶を辿る。
しかし、忍ちゃんという名前を聞いた覚えがない。
しばらくして、戻ってきた炯は若干機嫌が悪かった。
「グループ会社には弱いよな。さっきのセミナーの件、ゴリ押しされた。」
「そうなんですね…」
でも、なんだかこの絶妙な雰囲気で、忍ちゃんって誰ですかとは言いづらくて、結局、聞けないままに、終わってしまったのだ。
その日から、葵は『忍ちゃん』に囚われる。
少しでも、時間があるとぐるぐる考えてしまって。
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