『何の変哲もない一日』

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 彼は大食いなほうではない。食事を誰かと共に囲むことも苦手だ。それなのに一つの腹に収まりきらぬほどの鶏の丸焼きを作りたがり、食べたがる。醤油がまだ残っていたかと首をひねりながら、内臓を抜いた。 「よう、オルランド。遊びに来たぞ」  今日ばかりはその声がありがたかった。メルランが道なき道の向こうからやってきた。 「ちと早かったかの」 「早いな。そこの血とかを洗い流しておいてくれ」 「ちぇっ」  便利な使い走りが出来たと喜んでいる場合ではない。内臓と肉を別々にして、内蔵の方を瓶の底の方に残っていた醤油で煮込み、肉の方は一つはばらばらにし、もう一つはそのままにしておいた。鶏肉を冷蔵庫とかいう便利なものに、袋に入れてからしまっておいた。米をひとまず火から下ろし、タマネギや香草を炒め、腹に詰めるジャガイモのサラダを作った。  子供の頃にオリヴィエの家で食べた鳥の丸焼きは、何もないのに特別な日のような気がした。そうだと思い立って、尾羽の長い鶏一匹に『今日の夜ご飯はもう決まっているか。鳥の丸焼きを作ったが、食いきれそうもない』というメモを持たせ、オリヴィエのいる家、病院へ向かわせた。日はすでに真上に昇っていた。伝令の足……いや羽は遅いので、帰ってくるのは遅くなるだろう。……いや、きちんと頭が働けば、家の伝令を使うだろう。 「何だ、いま鳥が外に出て行ったが」     
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