『何の変哲もない一日』

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「いいえ、お客さんに手伝ってもらうことなんてないわ。お連れの方は、そっちの部屋に座ってるわ」 「あなたに迷惑をかけていないといいんだが」 「もう十分かけられたわ」 「ああ、家の中にいきなり入ってきたと聞いた」  のんびり談笑している場合かといわんばかりに、鶏は丸焼きになった。 「さて、出来たぞ」  上手い切り分け方を知らない彼はオリヴィエの妻に切り分けを任せた。一人や二人のときは適当につまんでいたので、とても綺麗な食べ方はしていなかった。この家で食べるときはいつも、彼女に任せきりである。  食べているときは喋らない。彼はおしゃべりは得意ではない。そういうことは得意な者、たとえばメルランにまかせておけばよいと考えている。彼はうまいこと家族の会話に溶け込んでいた。 「今日はジャガイモか」 「ああ」  彼が食事中に喋ったことといえばそれだけだった。おしゃべりは得意なほうのメルランといえば、喋りながら食べているのにオルランドより多く食べている。長く生きてきた間に身につけたものだから誰にも真似できないものだと、彼は思っている。高位の魔法使いというのは燃費が悪いらしく、オルランドの師匠の一人であるヘカトも大食漢だった。 「ごちそうさま。美味かった」 「気に入ってくれたようで何よりだ」     
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