0人が本棚に入れています
本棚に追加
ひまわり畑がさみしくなって、代わりに植える物を探していた。
君からはじめてもらった手紙のすみっこで咲いていたひまわりを見て、君にひまわり畑を見せたくなったんだ。ひまわり畑は見たことがあるのかもしれないし、そういえば君の一番好きな花だって僕は知らなかった。それでも君にひまわり畑を見せたくなった。
庭のすみに家庭菜園用に祖母が使っていた小さな畑がある。祖母が亡くなってからなんだかさみしくなって暇つぶし程度に適当な花なんかを植えてみたりしていた。何かが埋まるわけでもなく、ただ小さな畑が緑とかいくつかの色の花で覆われて、それでも暇つぶしに植えた花の隙間の草をむしったりしてみては、なんだか釈然としない空虚と呼ぶにも些細な畑いじりを繰り返していた。
今年の冬に君が僕に手渡した手紙には、透き通るような細く、流れるように柔らかな君の手書きの文字で庭の牡丹が美しいと花が好きな君らしいことが書いてあった。それでふと、机の引き出しを漁ってお菓子の缶にしまったっきりにしていた君からのはじめての手紙を読み返して、君にひまわり畑を見せたいと思いついた。最初はどこか公園なんかの大きなひまわり畑がいいだろうかと思ったけれど、なんだか味気ない気になって、持て余していた小さな畑にひまわりが咲いていたら素敵だと思った。ひまわり畑と呼ぶにはあまりに狭いけれど、庭ならば一番大きく咲いたひまわりを一番に確認して君に見せてあげられる。ひまわりは育てたことがなかったから、図書館へ行って育て方を調べて、春になってから種を蒔いて朝晩と水やりを日課にした。気がついたら背は伸びて、蕾が見えてきた。狭い畑で折れてしまってはあんまりに寂しいから添え木をしてやった。小さなこの畑にいる時間がひまわりで埋まっていた。
朝から蝉の鳴き声のシャワーに扇風機を出して、空には入道雲がかかるようになって、ひまわりの蕾はもう開ききっていた。眩しい黄色が夏の陽射しの中で勇ましく立っていた。一番おおきなひまわりが咲いたのがちょうどお盆のはじめの日だったから、夕方君を迎える準備をひまわりの見える縁側でした。
最初のコメントを投稿しよう!