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「僕の相手は彼ではなかったけど、もしも今度人を好きになったら先を望んでみてもいいかなぁ、なんてね。決意表明的な意味合いもあったのかもねぇ」
自らを語るのが照れ臭いのか、九鬼はまだ少しだけ湿っている百瀬の頭をわしゃわしゃと掻き混ぜた。
「で、そんな時に飛び込んできたのが君っていう」
「……え」
身を捩って九鬼の顔を見ると、いつもの意地悪な笑顔がそこにあった。
「可哀想に、こんなオッサンに捕まっちゃって」
自嘲するような九鬼に、百瀬は怒った顔で起き上がり、九鬼の上にのし掛かった。
「捕まったんじゃない。俺が九鬼さんを捕まえたの」
九鬼の顔の両側に手を置いて覗き込む。
捕らわれたのか、捕らえたのかは本当のところよくわからない。だけど、冗談でも自分を貶めるような言葉を九鬼に言って欲しくはなかった。
九鬼は虚を衝かれたような顔をして、やがて嬉しそうに笑った。
後頭部に回った手のひらが軽く百瀬を引き寄せる。百瀬はそれに抗うことなく顔を寄せた。
九鬼が望んだその先を、いつまでも二人で歩いていければいい。
そんな祈りを込めて、百瀬は九鬼と唇を重ねた。
《END》
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