第5章

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「一つだけ、訊きたいこと思い出した」  互いにシャワーを浴び、欲望の名残を洗い流して二人はシーツに潜り込んだ。外はすでに白み始めている。 「んー、なに?」  少しだけ眠そうな声が相槌を打つ。 「九鬼さんがカミングアウトした理由……、佐木さんを好きになったからって言ってた」  それは佐木への気持ちが強いから、揺るぎないから。それを証明する為に公表したのではないのだろうか。  九鬼は天井を向いていた体の向きを変えて百瀬と向かい合う。 「うーん、それか。全部を説明するのはちょっと難しいな。でも少なくとも彼に対する未練とか執着とかじゃなくて、むしろその真逆の気持ちからの行動なんだけどなぁ」  わずかに不安そうな表情を浮かべる百瀬を、安心させるように九鬼は小さく笑う。 「僕は自分がゲイだって自覚してからずっと、まともな恋愛なんてできないと思ってた。いや、恋愛はできるけど、それは刹那的なものだと思ってたし、実際そうだった。簡単に壊れる要因なんてそこら中に転がってるからね」  九鬼の瞳が寂しそうに見えて、百瀬は胸が痛んだ。無言で体を寄せると、九鬼は自分の胸に百瀬を迎え入れた。 「でも彼を見ていて、そうじゃないのかもしれないって感じられた。それで『白亞』を撮り終えたあと、隠すものでもなんでもないなって思って」  九鬼は口を開きながら、百瀬の髪を指先で弄る。
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