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収録スタジオを見渡すと大勢の人間がいる。番組を構成する何人ものスタッフ。見学にやってきた観覧客たち。そのすべてが見つめるのは、セットの中だ。ライトを当てられカメラを向けられた特別な存在たち。
「お疲れ様でした!」
ADの威勢のいい声が聞こえて、百瀬稔は手にしていた手帳を閉じた。それを鞄にしまい込み、代わりにスワロフスキーでギラギラのケースに覆われたスマホを取り出す。しばらくすると、スタジオ内を慌ただしく行き交うスタッフの間を縫って、気だるげな表情の藤波玲奈が近付いてきた。
「ねむいー」
グロスでテカテカに光る唇が、開口一番不満を呟く。百瀬はそんな彼女に小さく溜息を吐いた。
「それは玲奈ちゃんが俺の言いつけを守らず、昨夜遅くまで遊んでるからだろ?」
きつい言い方にならないように気をつけながら告げて、手の中のスマホを玲奈に差し出す。彼女はカメラの前以外はその端末を片時も離さない。
「それと、自分が話題に加わってない時も、他の人の話はちゃんと聞く。あと髪の毛触りすぎ。カメラに映ってなくても、共演者や観客は見てるから」
「そんなにガミガミ言わないでよー」
ディスプレイから顔を上げ、玲奈は唇を尖らせた。
「俺は玲奈ちゃんに売れて欲しいからね。多少は厳しくなりますよ」
じっと見つめてにっこり笑うと、玲奈は拗ねたような表情を浮かべつつも、わずかにはにかむ。
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