プロローグ

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 玲奈は目下売り出し中の新人タレントだ。女性向け雑誌の読者モデルで、昨年末に百瀬が勤める芸能プロダクションと契約を結んだ。こうしてバラエティやトーク番組に出演するようになってもうすぐ三ヶ月が経とうとしているが、未だに素人感丸出し。それでも出演本数が増える一方なのは、事務所の力が大きい。百瀬が芸能マネージャーとして働く【スター・アクセル】は、子会社を多数抱える業界最大手だ。  収録スタジオを出て、TV局内の廊下を歩いている途中で、玲奈は甘えるように百瀬の腕に絡み付いてきた。 「こら、玲奈ちゃん。くっつかないで」  注意しても玲奈は離れる気配を見せない。 「彼女の耳に入って、誤解されると困るから?」  上目遣いで玲奈が訊ねてくる。百瀬の腕に、玲奈の柔らかい胸が無遠慮に当たる。本人が気付かない訳がないので、わざとなのだろう。 「玲奈ちゃんのイメージが悪くなるからだよ。局内なんて、本当にどこで誰が見てるかわからないんだから」  百瀬が答えると、玲奈は唐突に腕を解放して立ち止まった。 「百瀬さんて、なんかズルいよね」 「どうして?」  笑顔で訊ねると、玲奈は「そういうところがズルイ!」と叫んで、先を歩いていってしまった。  残された百瀬は小さく肩を竦めて、スーツの腕についた玲奈のファンデーションをハンカチで拭い始めた。
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