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「君は僕のこと根に持ってると思ってたからね。下手に既成事実作ったら、あとでどうなるかわからない。佐木くんにでも『無理矢理押し倒された』なんて泣きつかれたら、堪ったモンじゃないし」
九鬼は両手を広げて降参のようなポーズを大げさに取った。
そうなると、あの夜九鬼が百瀬を拒んだのは、百瀬の行動に裏がある、と思ってのことだったということになる。
「じゃあ、九鬼さんは俺で……その、勃つの?」
思わず訊ねると、九鬼は小さく噴き出した。それでもちゃんと答えてくれる。
「言ったじゃない。君、顔はモロ好みだからね」
顔だけで選んでいた昔とは違う、とも言ったくせに。そう思って百瀬は眉根を寄せたが、それでも純粋にその言葉が嬉しくて口元が弛んだ。
「さっきの告白も罠かもなぁ。なんて勘繰るところだけど、幸い君の演技が下手なのは知ってるからね」
百瀬は思わずムッとしたが、今自分が伝えた気持ちが心からの本心だと信じてもらえているのだと思うとほっとした。
「僕は食えるものは食うよ? そこに好意があろうがなかろうが。君はそれでもいいの?」
九鬼は試すように無表情の顔を寄せてそう訊ねた。百瀬の胸がずきりと痛む。九鬼は自分に対して好意を持ってはいない。抱いてやるが勘違いするな。そう釘を刺しているのだと百瀬は思った。(だけど、それでも……)
百瀬はぎゅっと目を閉じた。
「それでいいです。顔だけでも体だけでも。九鬼さんに関わっていられるならなんでもいい」
目を開き、真正面から九鬼の瞳を見つめた。九鬼は百瀬を見返して、諦めたように長い息を吐いた。
「おいで」
九鬼は百瀬の手を取ると、部屋の奥へと歩き出した。
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