第3章

19/26
前へ
/127ページ
次へ
 九鬼のあとに続いて扉の向こうに入ると、そこは寝室だった。十畳ほどの部屋の端に、ホテルのような大きなベッドが一つ。この部屋も業者がコーディネートしたのだろう。カーテンや壁紙、チェストはシックな色合いで品良くまとめられていた。 「君さ、男と経験ないよね?」  寝室のドアを閉める音が、やたら大きく聞こえた。百瀬は九鬼の質問にぎこちなく頷く。 「自分が何をするのかわかってる?」  今度は少し間を置いて、それでもしっかり頷いた。 「じゃあ、僕をその気にさせてみて」 「え」 戸惑う百瀬に、九鬼は「僕に抱かれたいんでしょ?」と首を軽く傾ける。百瀬の顔が瞬時に熱を持った。その通りだったが、改めて言葉にされると素直に頷きにくかった。 「そうだなぁ、ストリップからのオナニーショーでも見せてくれる?」  九鬼のとんでもない要求に呼吸も動きも止まった。もしかすると、これは九鬼の冗談なのかもしれない。実際に百瀬が行動に移せば、『本気にしたの? 冗談なんだけど』と笑うのかもしれない。それとも試されているのだろうか。自分がどのレベルで九鬼を好きだと言っているのか、これから取る行動で量るつもりなのかもしれない。 「できないならいいけど」  その声に百瀬の肩がびくりと揺れた。九鬼がどんな意図を持ってこんな要求をしているのかは百瀬にはわからない。百瀬はただ、九鬼の瞳が失望の色を帯び、自分から逸らされる瞬間が来ることを恐れて、指でネクタイを引き抜き床に投げ捨てた。九鬼の口の端が上がるのが目に入る。そのままの勢いでジャケットも脱ぎ捨て、ベッドの前に立つと戦慄く指でシャツのボタンを外していく。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1142人が本棚に入れています
本棚に追加