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「……瀬くん」
遠いところで、自分を呼ぶ声がした。
(誰、だろう……)
「百瀬くん」
今度はさっきより近くで声が聞こえて、百瀬はゆっくり瞼を開いた。
「君、今日仕事じゃないの? もう八時回ってるけど大丈夫?」
至近距離で聞こえた九鬼の声に百瀬は一気に覚醒する。
「っ! あ、え、あの、仕事は、休み……です。えっと、お、おはようございます」
飛び起きた百瀬に、九鬼は一瞬呆気にとられたような顔をした。その後、百瀬の慌てようが余程面白かったのか、盛大に噴き出した。
「おはよう」
まだ笑いを引きずりながら、九鬼が挨拶を返す。
(えっと、俺……そうだ、昨日……)
じわじわと百瀬の中で照れ臭い気持ちが広がっていく。九鬼に思い切り笑われたからという理由だけではなく、今の状況を理解して、昨夜の出来事を思い出したからだ。
(嘘みたい……)
だけど、九鬼はちゃんと、最後まで百瀬を抱いてくれた。
百瀬はそれに安堵してしまったのか、緊張の糸が切れたのか、九鬼がシャワーを浴びている間に眠ってしまったようだった。仕事で疲れてもいたし、前日あまり眠れなかったのもあるが、ようやく思いを伝えられたばかりの相手の前で寝こけてしまった自分が恥ずかしかった。
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