第3章

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「っぶはっ、お礼ってなんの」  九鬼が笑ってくれて、少し安心する。自分に対して屈託なく笑う九鬼を見られたのは五年ぶりで、その事実も百瀬を勇気づけた。 ぎゅっと拳を握って、九鬼を上目遣いに見る。 「……また、来てもいいですか?」  緊張した面持ちで告げると、九鬼は数秒間を置いて答えた。 「いいよ。今度は君に合わせてSMプレイでもしよっか?」  さすがにその返答に「うん!」と答えることはできなかったが、断られなかったことが嬉しくて仕方なかった。 「……俺マゾじゃないですけど……」  ぼそりと反論すると、九鬼は「どうだかなぁ」とニヤニヤ笑って見せる。その反応に膨れつつも、百瀬は顔が弛みそうになるのを必死で堪えた。こんななんてことのない、くだらない会話を九鬼としていることが夢みたいだった。  九鬼が自分の顔にしか、体にしか興味がなくても今はそれでいい。  一週間前までは会うことすらできなかった。昨日までは話しすらまともにできなかった。だけど今は違う。気持ちだって伝えられた。ご飯だって用意してくれる。……もう一度『百瀬くん』と呼んでもらえた。信じられない進歩だ。  この先、少しずつでいい。そういう事柄を増やしていきたい、そう思った。
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