第4章

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「佐木さん、撮影は俺ちゃんと立ち会ってますから、そのうちにご飯食べてください」  メンズファッション誌の撮影の控え室。ヘアメイクを施される貴島の傍らで、PCを広げる佐木へと百瀬は声を掛けた。 「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」  佐木はPC画面から顔を上げて百瀬に微笑んだ。その顔にはやや疲れの色が滲んでいる。  映画の大ヒットを受けて、貴島のもとへは雑誌やTVの取材オファーが怒涛のように押し寄せた。すでに終日埋まっていたスケジュールの合間に、それらは無理やり詰め込まれる形になる。早い時は夜も開け切らないうちに一日が始まり、帰宅は基本的に日を跨ぐ。そんな日々が数日続いていた。日に何度も同じ質問をされる貴島や、一日中常に手帳、スマートホン、PCのどれかを手にしている状態の佐木に比べれば大したことはなかったが、二人のサポートに入る百瀬の負担も確実に増えていった。それでもまだ自分ができることの少なさに歯痒い気持ちでいっぱいだった。 「だけど佐木さん、朝から何も食べてないでしょう?」  今朝は七時から現場入りして、現在時刻はすでに午後四時を回っている。百瀬は先程の現場で佐木に促されて昼食をとった。貴島は移動の車中で弁当を食べていたが、佐木だけはその間もずっと各種の確認作業に追われていた。  佐木は百瀬に弱音や愚痴を言わないし、疲れた素振りも見せない。けれど実際はしんどいに決まっている。
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