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「ほら、全部綺麗になった」
満足げに笑う九鬼と目が合って、百瀬はようやく正気付いた。しかし何も答えられない。一連の行為が恥ずかしくて堪らなかったし、一人だけ昂って熱を放つのは置き去りにされたような心細さと、虚しさのようなものが残る。自分を労わる振りをして、結局、からかって遊ばれたような気分も拭えない。
様々な感情を持て余して、百瀬は何も答えず九鬼に背を向けるように寝返りを打った。
「あら、拗ねちゃった?」
それにも答えず、むっつりと口を噤む。
「モモちゃーん」
「……ペットみたいに呼ぶな」
いつもより低い声で不機嫌に返答をする。九鬼はやれやれ、という風に吐息で笑った。
「ほら、抱っこしたげるからこっち向いて」
その言葉には心が揺らいだが、それでも百瀬は頑なに九鬼に背を向けたままでいた。
「えー、いらないの? 抱っこ」
しばらくの間葛藤したが、結局欲望には抗えなかった。百瀬はしかめ面のまま起き上がると九鬼の方を向いた。
「ん、素直でよろしい」
九鬼は百瀬を引き寄せると腕に抱き込み、そのままベッドに倒れた。未だ消化しきれない気持ちは胸の中に凝っていたが、こんな風に甘やかされるとそれも溶けてしまいそうになる。
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