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「明日は仕事何時から?」
「十時だから……久々にちょっとゆっくりできる」
「十時って言っても、どうせ帰りは午前様でしょう? ここのところずっとハードだねぇ」
会話をしながらも、体力の限界ですぐに睡魔に襲われた。だけどもっと九鬼と話していたくて、百瀬はそれに抗うように口を開いた。
「しんどいのはしんどいけど、今は仕事頑張りたいから、いい」
「ふーん?」
九鬼は相槌を打ちながら、ぽんぽんと一定のリズムで百瀬の背を叩く。寝かしつけられている子どものようで照れ臭かったが、嫌ではなかった。
「……佐木さんみたいになりたいんだ」
段々と思考が覚束なくなってきて、話す内容が取り留めなくなってくる。
「隣に寄り添って、背中を支えることも、そっと押すこともできる人」
「へえ」
「今は足元にも及ばないけど、いつか届くように頑張りたい」
いつもよりゆったりとした口調でそう告げると、不意に大きな手のひらが百瀬の頭を撫でた。
「頑張るのはいいことだね。モモちゃんはイイコ、イイコ」
おどけたような口調とその仕草に、百瀬の胸がぎゅっと締め付けられる。九鬼にとってはただのスキンシップやからかいなのかもしれない。だけど百瀬はそんな何気ないことで涙が出そうになる。
(もうペット扱いでもなんでもいい。ずっと傍にいれたらいいのに)
そんな思考が浮かんで、感情が込み上げて、本当に泣きそうになった。百瀬はそれを誤魔化すように他の話題を探した。
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