1142人が本棚に入れています
本棚に追加
「白亞の欠片……凄かった。貴島くんも七原くんも。九鬼さんの作品はどれも好きだけど、白亞は……なんか色んなものが胸に迫ってきて、映画に呑まれた。って感じだった」
すると九鬼は驚いたように声を上げた。
「え、いつの間に観にいってたの? つーか、観てたなら早く感想言ってよねぇ」
拗ねたように言って唇を尖らせる。
「だって……」
「ん?」
「俺は九鬼さんの映画、すごく好きだけど、監督として才能があると思うけど、だから好きになったんじゃないから。凄い人だから好きになったとか思われるのやだなって思ったら、言わない方がいいのかなって」
映画を撮っている九鬼ももちろん百瀬が惹かれた九鬼には違いないけれど、あくまで一部に過ぎない。
九鬼はしばらく無言で百瀬を見つめていた。やがて小さく笑う。
「あんまり可愛いこと言われると、勃起しちゃうからやめて」
九鬼の手が百瀬の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜる。
「明日もバリバリ『白亞』の取材受ける貴島くんのケツひっぱたいてもらわないといけないんだから、もう寝なさい」
九鬼の声はぶっきら棒に響いた。
もしかして、照れ隠しなのだろうか。そんな考えが百瀬の頭を過ぎったが、すぐに聞こえた「それとも朝までエッチなことする?」という声に、慌てて思考を遮断して瞼を閉じた。百瀬の焦りように九鬼は微笑をこぼして、もう一度百瀬の髪を柔らかい手付きで梳いた。
徐々に遠ざかっていく意識の中で、その感触の甘さに胸が痺れる。どんなに仕事が忙しくても、辛くても、こんな風に九鬼に甘やかされるなら、百瀬はどこまででも頑張れるような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!