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「君、見た目はかっこいいのに、中身は結構グダグダだよね」
レンジのスタートボタンを押し、九鬼はしみじみとそう言った。その言葉にショックを受けた百瀬の顔をしっかり確認してから、九鬼は続ける。
「ま、僕はギャップある方が面白くて好きだけど」
途端に百瀬の顔が緩んだ。
「単純」
少し意地悪な顔が笑みを作る。百瀬の好意を充分に知っていても、九鬼は腹が立つくらいに冷静だ。こうして九鬼の言葉に一喜一憂する百瀬を見て楽しんでいる。百瀬はそれを悔しいと思うが、惚れた方が立場が弱いのは世の理だ。
「佐木くんにでも習ってみれば?」
「え?」
「料理。彼めちゃくちゃ上手だよ」
突然飛び出した名前に、百瀬は双眸を見開いた。この二週間程行動を共にして、佐木が有能な人間であることは充分理解していたが、料理までこなせるとは驚きだった。そして今に始まったことではないが、またもや九鬼の口から佐木の名前が出たことに、百瀬の胸がわずかに曇る。
「食べたことあるの? 佐木さんの手料理」
「うん。マジでヤバイよ。プロ級っていうかプロだよアレは。普通にお金とってもいいレベル」
自慢気な表情に、百瀬の胸にさっきより靄が広がる。九鬼との共通の話題として、貴島や佐木の名前が頻繁に出てくるのは仕方ないにしても、その内容には内心ささくれ立ったような気分になる。九鬼は佐木から手料理を振る舞われるような間柄なのだ。それは一体どこで? この部屋、それとも佐木の自宅かもしれない。まさか二人きりだったのだろうか?
様々な疑惑が百瀬の中で浮かんだが、結局どれ一つとして声には出せなかった。
「お。ちゃんと火、通ってるかなぁ」
終了のアラームを響かせたレンジの扉を開け、九鬼が皿を取り出す。
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