第4章

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「ん、大丈夫そう。ほら」  言いながら、九鬼が百瀬に皿を差し出す。 「あっ、つ」  考え事をしながら受け取ろうとした百瀬は、うっかり皿の中央真下に触れてしまった。 「ちょっと、なんで端っこ持たないの。熱いに決まってるでしょ、そんなとこ」  九鬼は怒ったように言って皿をレンジの上に載せると、百瀬の手首を掴んでシンクに向かった。 「寝惚けてるの? っていうかほんと、見掛けに似合わずドジっ子だよねぇ」  呆れたような九鬼に、百瀬はしゅんとなった。 「ほら、ちゃんと冷やす」  九鬼はシンクの水を流し、そこへ百瀬の指先を当てがった。 「ごめんなさい」 「別に謝ることじゃないけど」 「ご飯も、上手く作れなくて……」  佐木さんみたいに。付け足しそうになった言葉を慌てて噤んだ。無意識に当て擦るようなことを言い掛けた自分を百瀬は嫌悪した。料理も満足に作れない。それどころか怪我をして迷惑を掛ける。挙句卑屈な言葉を吐きそうになる。どこまでも情けない自分に落ち込みそうになった瞬間、九鬼がそれを咎めるように、百瀬の額を軽くノックした。 「別にへこむことじゃないでしょうが。君が色々頑張ろうとしてるのは見ててわかるから」  はっとしたような表情を浮かべる百瀬に、九鬼は仕方がないなぁというみたいに笑う。それだけで陰り掛けていた百瀬の胸が一気に晴れる。  九鬼の優しさが、嬉しくて苦しかった。いつかこの頼りない関係に終わりがきたら、この朝のことを思い出して切なくなるのだろうか。 (終わらなければいいのに。この時間が、この関係が……)  蛇口から流れ続ける水を見つめながら、百瀬はそれを痛い程に願っていた。
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