第4章

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 公開三週目に入った『白亞の欠片』の勢いは、衰えるどころか上映館が拡大する盛況ぶりを見せている。貴島と佐木のあまりの多忙さに、百瀬は休みを返上してサポートについていた。休みの日も出勤すると言う百瀬に、佐木も松田も反対したが、「今役に立たなくて、いつ立つんですか」と押し切った。  そして、感謝をしてくれる二人に、百瀬は密かに罪悪感を覚えていた。もちろん役に立ちたいのも心からの本心だったが、他の思惑もある。映画関連の仕事が集中している今は、九鬼と仕事が一緒になることも少なくない。明らかな公私混同で気が引けたが、それを楽しみにしている部分も大いにあった。 (今日は二回も九鬼さんに会える)  直前の収録が押してしまい、百瀬の運転で急いで向かったのは都内にある高級ホテルだった。今日はこれから、映画誌による貴島と九鬼の対談が組まれている。しかも今夜は、九鬼の部屋を訪れる約束もしていた。  運転している間に何度も心の中で呪文のように『今は仕事』と唱えて自分を戒めていたが、やっぱり仕事でも九鬼に会えるのは嬉しい。  さらに週明けには、急遽TVで放映されることになった『白亞の欠片』の特番の収録もある。 (だけどそれが終わったら、俺は……)  再来週が過ぎれば百瀬は貴島の担当から外れてしまう。魅力的な役者である貴島や、素直に尊敬できる佐木の傍から離れなければならないことも寂しいが、九鬼との関わりが一つ減ってしまうことに怯えのような感情があった。
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