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「あっついねぇ、今日。もう着替えたい」
ジャケットの袖を弄りながら、九鬼が佐木へと話し掛ける。
「九鬼さんがそういう格好をしてらっしゃるの、初めて見ました」
「ジーパンとTシャツで行こうとしたら事務所の女の子にすごい形相で怒られたんだよねぇ」
「よくお似合いですよ」
笑いを含んだ佐木の言葉に、九鬼は機嫌良く笑みを浮かべた。
「惚れ直した?」
「それはどうでしょう」
佐木は微笑のまま惚けてみせる。二人のやりとりに、スタッフから笑いが漏れる。けれど百瀬は笑えなかった。
「おい、おっさん。ウチのマネにセクハラやめてもらえますかね」
「いたっ」
急いで衣装に着替え、ヘアメイクを施されていた貴島が、いつの間にか姿を見せて九鬼の太もも辺りに膝蹴りを入れた。
「もうー、大地くんったらヤキモチ妬いちゃって。そんなことしなくたってこれからたっぷりじっくり二人で語り合っちゃうってのに」
「あ、すみません。始めてもらっていいですか」
貴島は九鬼を綺麗に無視して、女性編集者ににっこりと笑い掛けた。再び笑いが生まれて、和やかな雰囲気で対談はスタートした。二人は時に冗談を混じえ、けれど真摯に作品について語り合った。
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