第4章

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 もうしばらくして貴島の担当から外れれば、こんな風に真剣に仕事を語る九鬼を直接見ることはできなくなってしまう。この瞬間は特別なのに、百瀬は集中して見ることができなかった。何度も誤魔化そうとしたけれど、どうしても九鬼と親しげな佐木を羨ましいと思ってしまう。自分が無視をされたばかりだった所為で、その気持ちは余計に色濃く体内で渦巻いた。  さっきのやりとりは冗談なのだと頭ではわかっている。似たような軽口なら、貴島に対してだって言っていた。だけど何かが違うと感じた。それに、先日の朝の会話が百瀬の中で引っ掛かったままだった。佐木の手料理を絶賛する九鬼。お互いの部屋を行き来するくらい親密な間柄なのかと、百瀬は訊ねられないままでいた。  百瀬の隣で二人の対談を見守る佐木は柔らかな表情だ。そこに特別な情を感じるのは、自分の妄想なのだろうか。  胸がざわついて、視界が狭くなる。少し前まで浮かれていた気持ちは、もうどこを捜しても見当たらない。仕事の最中にこんなことを考える自分も堪らなく嫌だった。コントロールできない感情たちを、百瀬は歯を食い締めて耐えることに努めた。
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