第4章

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「もう入っていい?」  九鬼の問い掛けに、百瀬は何度も頷く。 「自分でできる?」 「う、ん」  小刻みに揺れる右手を九鬼の屹立に添え、百瀬はそこに向かって腰を沈めていく。 「っ、あ、……ぅ」  九鬼の熱が自らを開いていく感触。背筋にゾクゾクとした感覚が走り抜ける。全てを収め切ると、百瀬は九鬼へと覆い被さるように身を寄せた。九鬼に労わるように背を撫でられると、切ないような気持ちが込み上げてくる。 「百瀬くん?」 (どうして? なんで?)  こうして自分のすべてを捧げたところで、心は少しも穏やかにはならない。むしろ自分が与えられることの小ささを思い知って、焦燥感は強くなる一方だった。 (でも、本当はわかってる……俺はまた結局逃げてるんだ)  はっきりと輪郭が見えている懸念を認めることすらしないで、その不安が消える訳がない。  己の弱さに、情けなさに、どうしようもなく惨めな気分になった。それでも離れたくなくて、追い縋るように九鬼の腹に手を置き律動を刻み始める。 (ちゃんとしないと。九鬼さんに気持ちよくなってもらわないと) 「ぁ、……ぅ、アっ」  内部の九鬼を締め付けて、一心不乱に腰を揺らめかせた。 「百瀬くん」  もう一度九鬼が名前を呼ぶ。どこか戸惑うような口調を不思議に思った。九鬼が百瀬の頬に手を伸ばし、指で何かを拭う。そこで初めて、百瀬は自分が涙を流していることに気付いた。  どこか戸惑うような瞳で九鬼が見ていた。 (いやだ。そんな目で見ないで) 「……ッ」  百瀬は自分の頬に触れた九鬼の手を掴む。 「イイ、……気持ち、いぃ……っ」  握った手に唇を押し当てる。 「すごく気持ちよくて……おかしくなるっ」  情けない自分を知られたくなくて、これは快楽から流れた涙だと必死に誤魔化そうとした。  九鬼がそれで納得したのかはわからない。ただ、何も問わずに百瀬を見つめていた。 「あっ!  ん、ん……、ぅっ」  体が昂れば昂るほど、心の中は冷たくなっていく。こんなに深く繋がっているのに、怖くて不安で仕方なかった。  あとからあとから涙が出てきて、百瀬はさらに激しく腰を振る。嬌声を上げながら背をしならせた。
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