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「もう入っていい?」
九鬼の問い掛けに、百瀬は何度も頷く。
「自分でできる?」
「う、ん」
小刻みに揺れる右手を九鬼の屹立に添え、百瀬はそこに向かって腰を沈めていく。
「っ、あ、……ぅ」
九鬼の熱が自らを開いていく感触。背筋にゾクゾクとした感覚が走り抜ける。全てを収め切ると、百瀬は九鬼へと覆い被さるように身を寄せた。九鬼に労わるように背を撫でられると、切ないような気持ちが込み上げてくる。
「百瀬くん?」
(どうして? なんで?)
こうして自分のすべてを捧げたところで、心は少しも穏やかにはならない。むしろ自分が与えられることの小ささを思い知って、焦燥感は強くなる一方だった。
(でも、本当はわかってる……俺はまた結局逃げてるんだ)
はっきりと輪郭が見えている懸念を認めることすらしないで、その不安が消える訳がない。
己の弱さに、情けなさに、どうしようもなく惨めな気分になった。それでも離れたくなくて、追い縋るように九鬼の腹に手を置き律動を刻み始める。
(ちゃんとしないと。九鬼さんに気持ちよくなってもらわないと)
「ぁ、……ぅ、アっ」
内部の九鬼を締め付けて、一心不乱に腰を揺らめかせた。
「百瀬くん」
もう一度九鬼が名前を呼ぶ。どこか戸惑うような口調を不思議に思った。九鬼が百瀬の頬に手を伸ばし、指で何かを拭う。そこで初めて、百瀬は自分が涙を流していることに気付いた。
どこか戸惑うような瞳で九鬼が見ていた。
(いやだ。そんな目で見ないで)
「……ッ」
百瀬は自分の頬に触れた九鬼の手を掴む。
「イイ、……気持ち、いぃ……っ」
握った手に唇を押し当てる。
「すごく気持ちよくて……おかしくなるっ」
情けない自分を知られたくなくて、これは快楽から流れた涙だと必死に誤魔化そうとした。
九鬼がそれで納得したのかはわからない。ただ、何も問わずに百瀬を見つめていた。
「あっ! ん、ん……、ぅっ」
体が昂れば昂るほど、心の中は冷たくなっていく。こんなに深く繋がっているのに、怖くて不安で仕方なかった。
あとからあとから涙が出てきて、百瀬はさらに激しく腰を振る。嬌声を上げながら背をしならせた。
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