積乱雲の向こう

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季節の始まりというのは、不確かである。輪郭が曖昧で、ぼやけた感じがする。 何月何日に『春が来る』とか『秋が来る』と決めることはできない。気づけば、桜が咲いて虫が飛んたり、木々が枯れて肌寒くなっていたり、風邪をひいたり衣替えをしたり。それも、皆が同時に感じるのではなく、ばらばらなのが、季節の始まりだと思う。 それでも、夏の始まりというものは、中でもはっきりしている。 蝉の鳴き声や、台風の訪れ。 誰もがはっきりと気付けるしるしが、夏の始まりには多いような気がする。 僕にとっては、澄んだ青空を飲み込むような、巨大な積乱雲もその一つである。 夏の始まりが来ると、僕は怖くなる。 いつか、あの雲の向こうに行ってしまいそうになる。
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