積乱雲の向こう

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その日から、僕は何度もその女性を見た。 毎日、昼下がりになれば、同じ白い服を着て、道の真ん中で立ち止まり、雲の写真を撮っていた。何枚か撮り終わると、そのまま去って行ってしまう。時折、僕と目があうと、最初に会った時のように、僕に写真を渡してきた。もらった写真は全て机の中に放り込んだが、そのどれも、微妙に雲の形や角度が違うので、別の日に撮影されたものだろうと思った。 だんだん女性とも打ち解けてきて、写真を撮り終わると、僕は声をかけたりした。それでも、いつもと同じく写真を渡され、微笑まれるだけだった。 たまに、空から雨が降る日もあったが、そんな時は現れなかった。また、晴れている日でも、雲ひとつない快晴の日にはその姿を露わさなかった。積乱雲が大きくたなびく日にしか現れなかった。 時折、彼女から写真を見返すこともあったが、どれも透き通る青に白い雲が覆い被さっているものだった。どことなく、吸い込まれそうになる感覚を覚えた。 あの人と出会ってから、次第に、僕は宿題を朝の間に済ませるようになった。 八時には目を覚まし、朝食を摂ると、机に向かった。両親が、どうしたのかと心配したくらいだったようだ。 昼になると、積乱雲が広がっているのを確認して、『友人と遊ぶから』と言い、外へ出た。何となく、あの女性に会えると思った。
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