積乱雲の向こう

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「今日も暑いね、坊や」 彼女に話しかけられ、そうですね、と言おうとした時に、少し奇妙な感じを受けた。僕は日照りのせいで、全身が汗に包まれているけれど、彼女は一切汗をかいていない。 そんな表情を察知したのか、彼女は切れ長の目を細めながら、背の低い僕の目線に合わせて屈んで、 「どうしたの?私の顔に何かついている?」?と聞いてきた。 「いや、何も……」 「そう、良かった」 彼女は立ち上がると、積乱雲の方を向いた。さっきとはうって変わり、虚ろな表情をして、雲を見ている。 「今日は、写真を撮らないんですか?」 「これから撮るのよ」 カメラを構える。レンズを回してピントを合わす。 どこかで聞こえる車の音をかき消すように、シャッターを『がちり』と切る、何度も何度も。 やはり、彼女が二十枚くらい写真を撮ったころだろうか。僕は話しかけた。 「いい写真は撮れましたか?」 すると、彼女はファインダーを下ろし、虚ろな表情で、 「いい写真なのかしら」 ため息交じりに話した。 「どうして、雲の写真を撮っているんですか?」 「知りたい?」 彼女は、僕の方を向き微笑んだ、その時に再び彼女を『怖い』と思った。 「雲の向こうに、大切な探し物をしているの」 彼女は、僕においでというように手招きをした。まるで蛍光灯の光に誘われる蛾のように、僕は彼女についていった。 まだ蝉の声は聞こえ、道の向こうからバスが走ってきた。陽はまだ十分高い。
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