1 今年もやってきました!

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太陽は随分と傾き、夜の色が空には見えている。橙と紫を混ぜ合わせたような空がそこにはあるが、照りつける日差しの温度は昼間と変わらない。 雪女はふっと冷気を吐く。 「暑いですねえ」 「今年はもう、災害レベルですから。ところでその着物……暑くないんですか?」 隣を歩く雪女の着物を、千景は上から下まで眺める。真っ白な布地に、繊細な模様が描かれた着物、もちろん中にも相応を着込んでいるのが見えるのだ。 雪女は、どこか自慢げにうふふっと笑ってから「智史さんに、会うつもりだったんですもの」とその場で少しだけぴょんと跳ねた。彼女の黒い髪がさらりと揺れて、ひんやりとした風が舞い、雪のかけらがちらついてすぐに消えてしまう。 「え?どういう意味ですか?」 「もう、千景さんはわかってないんですねえ。恋している相手に会うんですから、暑いとか……寒いはわからないので、暑いとか、暑いなんて言ってる場合じゃないんです。わたくしが一番気に入っている、とっておきでお会いしなくちゃ。失礼ですもの」 雪女は弾むようにいいながら、にこにこと笑った。生き生きとしている彼女が、恋のためにここへ来ているということは千景にももちろんわかっていた。 千景は、不意にぴたりと立ち止まる。雪女もつられて、足を止めた。 「……ちょっと、ここで待ってて」 「は、はい」 雪女が頷いたのを見ると、千景は急にダッと走り出した。その背中を見つめながら、雪女は目を白黒させる。 「……ご迷惑を、かけてしまいましたね」 夏の夕暮れをそっと見上げ、雪女は小さく呟く。もう何百年も、人を好きになってはただ見送るばかりになっていた。今回もそうで、それは悲しいことだけれど、仕方ないようにも思えてしまう。こんなに夏が暑いなら、溶けてしまうのもいいかなとも思えてしまった。 「おまたせっ、はい」 「え……」 息を切らせて戻ってきた千景は、彼女にずいとビニール袋を差し出す。雪女はぱちぱちと瞬きをしてから、それを受け取った。 「……なんですの?」 「アイスクリーム」 「あいす?くりぃむ?」 千景は、彼女が持ったビニールから、アイスの袋を二つ取り出してみせた。首を傾げる雪女の前で、ひとつ袋を破り、アイスキャンディーを齧る。
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