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真似ろと言いたげな視線を向ければ、雪女もおずおずと同じ手順でアイスキャンディーを取り出し、ぱくりと口に咥えてみせた。
「……おいしい!?というか、冷たいです!!」
「現代のお菓子。氷とかで出来てて、まあこのまま帰すのもあれだと思って」
雪女は彼の言葉に、嬉しげに目を細めながら、アイスキャンディーを齧っては?を緩める。その様子を見ながら、千景はどこか安堵したように胸を撫で下ろし、また並んで歩いていく。
「雪女はさ」
「……はあ、これ美味しいです。どうなっているのでしょう!?果物?果物の果実を凍らせているんですかね!?あ、でもこのようなものは、暑いから美味しいんですよね。わたくしは涼しい山に帰るので、あ、なんだか勿体ない。と、す、すいません。なんですか、千景さん」
興奮している彼女を見て、千景はくすりと笑う。それから「どんなひとだったの?」と問いかけた。
「……智史さんは、千景さんのお兄さんですよ?」
「あー違う。そっちじゃなくて、えっと、一番最初に好きになったご先祖さん」
「八雲さんのことですか……そうですねえ」
雪女は少し考えるように顎に手を当ててから、髪をさらりと耳にかける。千景のほうを見て「優しいひとです」と静かに言った。
「もちろん、優しいひとなんてたくさんいます。だけど、あのとき、わたくしが……まだ人間と雪女に隔たりが大きいのに、それでも仲良くなれるなんて夢みてたときのことです。それでも人間のふりなんかして、人里に降りて、人間の真似なんかして、だけどやっぱり気づかれてしまって……。そのときに、何も変わらず接してくれたのが八雲さんだったんです」
「……へえ、ありきたりだね」
「そうですね。だけど、ありきたりのことが嬉しいときって、たくさんあるんですよ。名前を呼んでもらったり、少し声を掛けて頂いたり、ああわたくしをちらりとでも見る人がいるのだなと気づけたの、嬉しかったんです」
雪女はそう言って、満面の笑みを浮かべた。千景にとってその笑顔は、夕日に照らされて眩しく見えた。目を眇めて「そうですか」と、相槌を打つ。
「……それで、八雲さんのこと好きになりました。その辺りは、安直だったなあって今でも思います。だけれど、わたくしは狭い世界にしかいなかったから、八雲さんしか好きになれませんでした」
「……」
「結局、想いは叶わなくて……それで」
「それでもよかったの?」
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