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2 今年はやっていきます!
☆
一年後、夏。
「か、かわいい!かわいいです!」
「どうもありがとうございます……ってか、去年はすいません」
「い、いえいえ」
雪女は、とんでもないと言いたげに首を振る。智史に抱っこされた赤子が、あうあうと声を上げながら、ひやりとした雪女の手を触っては、きゃっきゃと笑っていた。
「あの……」
「ん?」
「千景さんは、ご実家ですか?」
「千景?」
「あ、去年お会いしたんです。ご実家で。智史さんの弟の」
「……あれ?言いませんでしたっけ……。俺、ひとりっこですけど?千景って名前の親戚とかも、知りませんけど」
雪女は、ぱちぱちと瞬きをして、昨日のことのような彼の手の熱を思い出す。
「そ、そうなんですか」
「はい。っていうか、去年来てたとき、うち墓参りに行ってたんですよね。ご先祖の。お盆の時期でしたから」
「……そ、そうなんですね」
雪女はその言葉に、ぎこちない笑みを浮かべて頷く。同時に、千景の言葉を思い出していた。
『縛られないで、広い世界を見て』と。
「……智史さん」
「あ、はい」
「わたくし、来年からはここに来られないかもしれません」
「え?なんで」
「わたくし、言われてしまったのです。広い世界を見たほうがいいって」
智史は子供をあやしながらも、ぽかんとした表情で雪女を見た。どこか自信に満ちた彼女に、智史は思わず笑ってしまった。
「……そうですね。たしかに雪女さんって、こんなところに収まる器じゃないっすよ」
「どういう意味ですか!?それ?!」
「いい意味なんで」
「それなら良いですが。では、君にもご加護がありますように。また会いましょう」
雪女はすっくと立ちあがり、夏に走り出した。
そうして彼女は、世界へ探しに行くのだ。
好きになってしまえる誰かを。
おわり
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